設定メモ

段鏑

 

鏑木一差:UCIプロチーム:ガルーダ・フェルトの若きエース・スプリンター。27歳。大学在学時からフランスのワールドチーム:FDJ(現在のグルパマ・FDJ)に引き抜かれ、一度は五輪にも出場するほどの勢いを保持したが、落車で肩腱板断裂を起こし23歳にしてチームとの契約を終了する運びとなった。25歳、単身インドネシアへと渡り、現地選手を集めてガルーダ・フェルト(当時はチームSSS)を結成、UCIコンチネンタルチームに登録。26歳、UCIプロチームに昇格し、ジロ・デ・イタリア2022にてポイント賞を獲得。ガルーダ・フェルトがまだスポンサーのないチームだったとき、当時の同企業社長イルファン・スティアプトラに直談判、一度断られたのちインドネシア帰化し、覚悟を示した。愛車はFELT FR30のホワイト。コンポーネントにはアルテグラR8100、ホイールにデュラエースを、ハンドルバーにのみスペシャライズドのROVAL ALPINIST SL COCKPITを採用。

 

段竹竜包:一差のFDJ時代のチームメイト。エースアシストとしてスプリンターの一差を牽引し何度も表彰台を獲らせた。彼がチームを辞してから別のエースについたが成績は少しずつ落ち込み、翌年には自らもチームとの契約を終了した。ドイツ・ヴィッテンベルクで現地女性と家庭を持つもすぐに離婚。当時の使用車はS-WORKS TARMAC SL8 - SHIMANO DURA-ACE DI2。

 

手嶋純太:UCIワールドチーム:チーム・キャノンデール・ガーミンのクライマー。29歳。チーム入りを果たした2020年から近年まで目立った活躍がなかったものの、一月のダウンアンダーで不本意ながら総合優勝を果たして以来、東洋の山岳覇者としてアジア圏若年ライダーから絶大な人気を博す。同年五月ジロ・デ・イタリアは先頭集団に遅れをとりながらも第二十ステージで山岳賞一位。本来ロードには向かない体格・脚質であるが、不屈の努力でこれをカバーする。ワールドツアー用の車両はCANNONDALE System Six Hi-Modのブラック、コンポーネント、ホイールにはデュラエースR9200を採用。私用にはCAAD13スモークブラック(完成車)を使用。ロードとは別にMTBのアマチュア大会にも出場し、その際の使用車はCANNONDALE Scalpel Carbon2。

 

青八木一:UCIワールドチーム:キャノンデールNIPPOのスプリンター。大学在学中にドイツのコンチネンタルチームから引き抜きを受け、以来ただ一人のアジア人選手として出場しチームのポイント賞に貢献するも、過去チームぐるみで行われたドーピングが発覚し選手生命の危機に晒される。2021年、手嶋を伝に前述チームに入る。大会用にはSuperSix EVO3 CharkコンポーネントにはデュラエースDi2、ホイールにはフルクラム・レーシング5を採用。愛車はCorratec R.T. CARBON DISCのシルバー。基本的に堅実な設計の自転車を好んで用いる。

 

 

 

 

30000

 

私:ミュンヘン大学に通う日本人留学生。18歳。学校の寮に住んでいるが、寮母の作る食事が不味くホームシックに陥っている。

先生:ミュンヘン大学の日本人教師で、私の留学をサポートしている。年齢を聞かれるとはぐらかす。現地学生に日本語を教えるほか、ZHSのロードバイクコースでコーチを務める。闊達で交友関係が広い。普段は大学付近のアパルトメントに息子と滞在しているが、休日はテガーンゼー湖ほとりの自宅で静養する(自転車で往復している)。冬季休暇の間行くところのない私を、自宅のクリスマスパーティに誘う。

奥さん:先生の妻。挿絵作家、絵本作家、園芸家。とても歳を感じさせない、静謐な美徳がある。質のよい美しいものを愛する。家族のいない平日の午後、近所の友人を呼んでティーパーティを開くのが趣味。第三子を妊娠しているが、本人だけがそのことに気づいている。

ご子息:先生と奥さんの息子。19歳。ミュンヘン大学法学部の二年首席。ドイツ語・英語を自在に操るが、家庭内でしか使用することのない日本語はあまり得意ではない。平日は父親と同じ部屋で生活し、週末には自宅に戻る。タンデムパートナーはベルリン生まれの一年生。自分がアジア人であることにコンプレックスを感じている。

お嬢さん:先生と奥さんの娘。16歳。フランス・パリオペラ座バレエ学校の第2ディヴィジョンの留学生で、長期休暇の間のみ実家に帰ってくる。しなやかな脚を生かしたコンテンポラリーダンスを得意とし、卒業後のオペラ座入団を有力視される実力者。筋金入りのマザーコンプレックス。一日に二度母親に電話をかけている。

 

 

 

 

片瀬高校

 

浅井諒太(あざい・りょうた):神奈川県立湘南片瀬高校三年、テニス部部長。テニスが特別うまいわけではなく、むしろ凡人に類されるものの、人望が厚く努力家。部員一人一人に細やかに気配りし、的確にアドバイスを与えることのできる慧眼の持ち主。ただし個人としては我儘に、欲張りに振る舞うことを好み、いつも市子や公貴を困らせている。浅井一家は国際貿易で多大な利益を得ていた公家一族だったが、昭和初期の世界大戦でほとんどの船を失って没落し、今ではその子孫がポツポツと一般人に紛れているくらいでかつてほどの影響力はない。三人は互いに愛し合い、その力関係は均衡を保っているものの、それでも名家の生まれの他二人に対してかすかな劣等感を感じている。実家は新屋敷、出身中学は片瀬中学校。

 

神代市子(じんだい・いちこ):神奈川県立湘南片瀬高校三年、テニス部副部長。いつも諒太の影に控え、適切なタイミングで補佐をする女房役。数少ない女子部員の中でもずば抜けた実力者で、諒太や公貴と打ち合っても競り負けることがない。主に財界で幅を利かせる元財閥神代一家の一人娘。父は巨大鉄道会社の会長と経団連審議議長を兼任する財界の名士だが、妻との間に女の子しか生まれなかったために、後継の義子として関わりの深い公貴に白羽の矢を立てた。テニスコートやプールのついた七里ヶ浜の邸に一人暮らしをしている(ただし、門前の離れには使用人や運転手、警備員がいつでも控えている)。中学までは東京九段の実家から白百合学園に通っていた。

 

久我公貴(こが・きみたか):神奈川県立湘南片瀬高校三年、テニス部会計。まじめで厳格な性格で、部員のたるみを許すまいと常に目を光らせ恐れられている。主に政界で幅を利かせる古河一家の三男坊で、上に兄が二人いる。参議院議長を務める父親の手によって仕組まれた兄弟間での後継者争いに全く興味がなく、むしろごく普通の暮らしを好み、市子や公貴と静かに暮らしていた。兄たちは激化する争いの中で愚かにも反社会勢力に手を出し、一人は無残な射殺死体で発見され、一人は警察に取り締られて、結果的に公貴を後継者の筆頭候補に引き上げてしまう。公貴は好きに外出することもできなくなり、やがて神代家の一人娘である市子との結婚が取り決められる。北鎌倉の美しい別邸で物分かりの良い中年の侍女ひとりと暮らしている。

 

 

 


わかばハイツ201


金子親弘(かねこちかひろ):わかばハイツ201号室に住む19歳の少年。中卒。地元のラーメン屋でアルバイトをして生計を立てている。 両親はいるが離縁しており、素行も良くないため、近所の住民や同級生たちからは煙たがられているふしがある。

吉野まりな(よしのまりな):親弘の幼馴染の女の子。大学では学祭実行委員を務める優等生で、同級生にも後輩にも慕われている。両親ともに生物学者で、将来は自分もその道に進むのだろうと漠然と考えている。

榊小銀(さかきこぎん):親弘の恋人。冷たい印象の少女。地元の名士の娘で、身の回りのことはなんでも使用人にやらせていたので世間知らず。カチャをアパートに住まわせている親弘について不安に思っている。

カチャ/カタリナ・クリヴォノギフ:某国国家元首婚外子。母親は貧しい掃除夫だったが、現在は父の支援を受けて国内屈指の富豪に名を連ねている。本人はそうした母の方針に同意しかねて出奔し、紆余曲折を経て親弘のアパートに住むようになる。他国への侵攻を承認し、世界中から非難を集める戦争犯罪者となった父の存在のために精神を病んでいる。本人も世界中の諜報機関からその身柄を狙われる立場にある。

浜松健太(はままつけんた):まりなの同級生。入学式の日に迷子になったところを助けてくれたまりなのことが好きで、彼女に絡む親弘をよく思っていない。

 

 

 

父の秋扇

 

不動明(あきら):ユウセイの息子。19歳。つい最近まで日本国籍アメリカ国籍の両方を持っていたが、母に倣って日本人に帰化した。高校生の時、男性の先輩を好きになってしまったことで自分がゲイであることに気づく。勇気を出して愛を告げたものの、手酷い形で拒絶を受け、落胆していたところを父に諭された。失恋を忘れるため世界旅行に出る。キューバでジャック・アトラスに出会う。

 

ユウセイ・フドウ:サティスファクションのメンバー。ギター担当。43歳。日系アメリカ人。父母はニューヨークで働く裕福な科学者だったが、事故で亡くなり、孤児となったユウセイはサウスブロンクスで幼少期を過ごした。ジャック・アトラスと恋仲にあったが、サティスファクションが解散した1974年、破局。その後23歳で大学に入学し、量子力学を専攻、現在では量子科学技術研究の専門家として活躍している。24歳の時、サティスファクションが日本ツアーを行った際に出会った女性と結婚し、二人の子供をもうける。

 

ジャック・アトラス:サティスファクションのメンバー。ベース担当。44歳。物心ついた時にはすでに孤児で、その後出自がわかることもなかったが、その美しい容姿からプリンスの愛称で親しまれた。サティスファクションが解散し、ユウセイと破局してからは長らく行方が分からなくなっていた(実際は、ヴァラデロ・キューバの小さなアパートで、恋人も子供も持たず一人で暮らしていた)。44歳の夏、睡眠薬を大量に服薬したことによる中毒症状で死去。

 

クロウ・ホーガン:サティスファクションのメンバー。ドラム担当。42歳。ヒスパニック系の移民の子で、1959年の高速横断道路の建設に伴って親子ともどもサウスブロンクスにやってきた。7歳のとき、ギャングに両親を射殺されるところを偶然目撃してしまい、重いPTSDに苦しんでいたところをカリンに救われた。彼の死後も、「カリンは最高の兄貴で、最高のシンガーだった」と度々発言しており、メンバーの中で唯一サティスファクションの系譜を踏んだ音楽活動を続けている。彼が両性愛者であることは有名で、私生活では男性とも女性とも恋愛関係を持ち、また多くの老若男女を招いて乱交パーティーを度々行なっていた。

 

カリン・ケスラー:サティスファクションのリーダー。ボーカル兼ピアノ担当。熱心なユダヤ教徒で、両親の持っていたタナハを自分も肌身離さず持ち歩いていた。15歳のときからHIVに感染しており、サティスファクションが人気を極めた23歳のとき、合併症によるニューモシスチス肺炎のため死去した。

 

 

 

 

 

千紫万紅邸

 

不動遊星:不動財閥一族の若き当主。1913年生、25歳。不動本家の嫡男として生まれ、乳飲み子のころよりさまざまな学問・芸術・慣習を叩き込まれてきた。その結果、機知と智慧に富み、弁が立つ方ではないものの、真っ直ぐで真面目な青年に長じた。19歳の時、当時の不動一族当主であった父を脚気で亡くしたことで一族は後継者争いに混迷するが、遊星は堕落者の兄二人を凌いで次期当主となる。その後、祖父や父の代で傾きかけた経営を立て直し、古い慣習を徹底的に是正して、不動一族の復権に尽力する。22の時、実質的な権力を後継者たちに分散して譲渡し、自らは三人の妻とともに鎌倉山の奥地に位置する別邸に居を移す。普段は本館に住み、夜になると妻たちの住む離れに渡って一晩を過ごす、という生活を送っている。

不動財閥は明治期に立ち起こった新興政商であり、西南戦争台湾出兵などで力をつけ、やがて昭和初期の軍需景気でその影響力を揺るがぬものとした。主に電気・工業の分野に造詣の深い者が多いが、遊星が実権を握ってからは、造船業・航空業・鉄道・貿易などにもその勢いを広げた。

 

紅薔薇夫人:遊星の妻の一人。別邸に三つある離れのうち、東の離れに住んでいる。紅薔薇夫人というのは、東の離れからは庭の紅薔薇が美しく見えるということにちなんだ使用人たちからの愛称であり、本名は十六夜アキ。代々皇族とも深い関わりを持つ公家一族・十六夜家の一人娘で、幼い頃から良家の妻となるべく厳しい教育を施される。そのためにかたくなに心を閉ざし、何ものにも心動かされることのない氷の女として周囲に揶揄され、本人もそのように自らを責めながら半生を生きる。遊星とは両家合意のもとの政略結婚で結ばれるが、彼の誠実さや真摯な性格に惹かれ、少しずつ心の呪縛を解いていくとともに、彼への恋慕の思いを強める。結婚してしばらくしても跡継ぎが生まれないので、十六夜家から再三催促の電報が届いている。

 

白百合夫人:遊星の妻の一人。別邸に三つある離れのうち、北の離れに住んでいる。白百合夫人というのは、北の離れからは庭の白百合が美しく見えるということにちなんだ使用人たちからの愛称であり、本名は不動**。遊星の父が愛妾との間にもうけた不義の子であり、遊星の妹にあたる。生まれつき薄弱の気質があり、夜会にも女学校にも行くことがかなわず、父の書斎に籠って医学や化学、政治学の書籍を読み漁ることを無聊の慰めとしてきた。また、たった一人の兄と仰ぐ遊星が持ち帰る花や河原の石などを並べ、いつまでも眺めていることを好んだ。15歳の時、遊星が不動一族の当主となり、彼女にも他家との縁談が持ち上がるが、虚弱な身体では子どもを産むことはおろか男の欲を受け入れることすら危険であるという兄の懸念により断念。名目上の妻として兄の扶養下に入る。兄が特に信頼を置く部下の一人に懸想を抱き、やがて密かに姦通するが、兄はそのことをすでに承知しており、彼女もそれをわかっていてなお貞淑な妻として振る舞っている。

 

紫陽花夫人:遊星の妻の一人。別邸に三つある離れのうち、西の離れに住んでいる。紫陽花夫人というのは、西の離れからは庭の紫陽花が美しく見えるということにちなんだ使用人たちからの愛称であり、本名はジャック・アトラス。遊星が18歳の時に単身留学に赴いたドイツで出会った少女。ドイツ空軍に軍用機を提供する巨大航空機メーカー・アトラス社創設者の末娘。コルセットドレスを着て男性に微笑みながら一生を終える、という当時の理想的な女性像に嫌気がさし、ドイツ初の女性パイロットになるべく一人でトレーニングに励んでいた。だが遊星と出会い、自分の夢に本気で耳を傾けてくれる彼に惹かれ、やがて国境を越えた恋に身を投じてゆく。遊星が1年間の留学を終え、帰国する際には、自ら彼にプロポーズして共に渡日してしまう。その後、不動財閥が本格的に再興するにあたって、遊星は彼女を妻にすると同時に、航空産業における監督責任者としての実権を与えた。

 

奥方:遊星の義母。不動一族前当主の四番目(最後)の妻で、遊星と直接の血のつながりはない。おそろしく若い女の姿をしており、いつも赤の留袖に身を包み、懐刀を携えている。他三人の義母たちがそれぞれ由緒正しい家の令嬢であるにもかかわらず、彼女だけはその出自が全く知れていない。

 

 

参考 大正一年=1912年、昭和一年=1926年、第二次世界大戦開戦=1939年、太平洋戦争開戦=1941年、終戦1945

 

 

 

 

ティースプーン

 

不動遊星:**の弟。1953年生、25歳。幼い頃に科学者の両親を実験事故で亡くし、以来たった一人の肉親となった姉の手で育てられた。18歳の時、その頭脳と努力家であることを認められ、奨学金を得てアメリカ・プリンストン大学に進学。量子力学を学び、3年後、若き天才物理学者として帰国する。東京大学理学部にて講師を務めるかたわら、エンタングルメントの資源的活用についての研究を行う。故郷にて幼馴染のジャック・アトラスに再会し、4年間の交際の末結婚を望むようになるが、姉の同意を得ることができずに苦悩する。

 

不動**:遊星の姉。1950年生、28歳。生まれつき身体が弱く、乳児期に小児肺炎とウィルソン・ミキティ症候群を併発したことを皮切りに、免疫不全などの理由からさまざまな疾患に悩まされてきた。12歳の時、両親の死去とともに経済的援助を失い、病の治療はおろか幼い弟の養育さえままならなくなる。懊悩の末、自らの肉体を切り売りすることで金銭を稼ぎ、自分と弟の日々の食い扶持をなんとか確保する。17歳の時、中学教諭に私立高校への進学を勧められた弟のために、かねてより申し出のあった資産家の男との結婚を決意する。だが夫の異常嗜好についてゆくことができず、ある晩の同衾にて顔半分を焼かれたことをきっかけに、コーヒーにシアン化物を混入し毒殺してしまう。以後、コーヒーが大の苦手になる。夫の死によって広大な屋敷と美しい庭、莫大な財産、多くの使用人を手中にするが、喪があけてすぐその大多数を手放し、軽井沢の別邸に特に信頼を置いた三人のボーイと暮らすようになる。物静かだが闊達に成長した弟とその恋人に後ろ暗い思いを抱えている。

 

ジャック・アトラス:不動姉弟の幼馴染、遊星の恋人。1952年生、26歳。不動家を不幸が襲うまでは彼らの隣の物件に住んでおり、家族ぐるみでの交流も多かった。母の手引きでクラシックバレエを習っていたが、すぐにその才能を開花させ、15歳の時ローザンヌ国際バレエコンクールで第一位を獲得、イギリス・ロイヤルバレエスクールに1年間の留学を果たす。卒業後も立て続けに名のあるバレエコンクールに名を残し、19歳の時、パリオペラ座バレエ団に契約ダンサーとして入団。2年後、プリンシパルの座に輝く。ツアー公演に訪れた故郷の街で遊星と再会、成長した彼と熱烈な恋に落ちる。

 

クロウ・ホーガン:不動姉弟、ジャックの幼馴染。1950年生、24歳。出自はアメリカだが、3歳の時に両親が離婚し、日本人の母方の祖母に引き取られて渡日した。中学進学時の部活動紹介で陸上競技に出会い、その後高校3年までの6年間を陸上に捧げるが、めざましい結果を残すことができないまま卒業。大学進学はせず、高齢となった祖母や身寄りのない子どもたちの世話をするべく地元のバイク販売店に就職する。世界を舞台に活躍する幼馴染たちを誇らしく思う一方で、彼らの行く末を案じている。

 

鬼柳京介:ジャックのバレエスクール時代の同級生。1951年生、27歳。友人として親しくしていたジャックでさえもその詳細なプロフィールを知らない、謎多き人物。スクール卒業後は約束された進路であるロイヤル・バレエ団への入団を蹴り、単身アメリカに渡って小劇団サティスファクション・カンパニーを設立。主催者兼芸術監督として、様々なバックグラウンド・様々な人種のダンサーを集めている。

 

アンチノミー:**の身の回りの世話をするボーイのひとり。アンチノミーというのは本名ではなく、哲学と心理学を愛する**がたわむれにつけたあだ名。彼女が前主人の妻として屋敷を訪れたその日から線の細い薄幸の横顔を忘れることができなくなり、懸想に溺れ、身の程を超えて彼女を援けようと立ち回った。結果、前主人の毒殺の秘密を共有する唯一の人間となる。彼女を幸福にしたいと思う一方で、手ひどく犯して自分の子どもを産ませたいという仄暗い欲望を滅却することもできず、そんな自分を許せないまま、何も告げられないまま一使用人の身分に甘んじている。

 

パラドックス:**の身の回りの世話をするボーイのひとり。アンチノミー同様、パラドックスという名前も本名ではない。もとは相対性理論をはじめとした宇宙物理学を専門とする大学准教授だったが、前主人が学問をしたいという妻の願いを叶えるために彼を使用人として買収した。**の類まれな明敏を高く評価する一方で、妹に向けるような親愛の情をも抱き始めており、彼女の出自とその行く末を案じるらしくもない感情にため息ばかりついている。

 

アポリア:**の身の回りの世話をするボーイのひとり。アンチノミーパラドックス同様、アポリアという名前も本名ではない。内戦の激化する中東に生まれ、両親や恋人を戦火で失い彷徨っているところを海外旅行中の**に拾われ、使用人として雇われた。ボーイたちの中ではもっとも歳若く、若者特有の気難しさを大いに持て余しているが、自分を召し上げた主人のことは敬愛し尊重している一面もある。