アテンの月の標本

2023/05/23

まだ陽も上らない、薄暗い暁のころ、シルバーの肉体は茫漠とした眠りの海から静かに引き上げられる、そのようにできている。とはいえすぐに身を起こすと血が引いてよいことはひとつもないので、しばらくはとろんとした眠り気にひたされたまま、手足に滞留す…

A

すぐ戻ってくるからと、言いながら頬にふれたいいかげんで優しい唇のこと、きっと死ぬまで忘れない。 彼は戻ってこなかった。冷ややかな永遠の存在を教えて、それだけ残して、シルバーから静かに立ち去った。言い訳はいくらでもつく、足下がぬかるんでいたの…