エスペランサ
B-3 「アキ、まだ何か言いたいことがあるのか」「いいえ、遊星、告白するわ、私あなたのことがまだ好きだったの、あなたと別れたこと今でも後悔してる、あなたと別れてからあなたがやさしくしてくれたこととかかけてくれた言葉とか思い出してむなしくなった…
B-2「どう思ってんの?」部屋を取っているホテルへと車を走らせる遊星の横顔に、神妙そうな声で十代が問いかけた、美しい彼女はまだ裸だった。何がですか、と遊星は答える。「いや、オレ赤ちゃん欲しいんだけど」「それはまた唐突な申し出ですね……」「いつも…
B-1 オープン・ヒップ・ツイスト、 ホッキー ・ティック 、 オープン・ベーシック 、チャチャチャのステップは、十代の細い身体によくにあった。チャチャチャというのはマンボを源流とするキューバのダンスで、マンボよりもスローだ、そのために美しく軽快な…
A オレはオレ自身の錯乱を整理したくてキューバにやって来たんだ、とその痩せた女は繰り返すばかりだった。きれいな女だった。だが、女はどこか破綻しており、そのために世の中の遍くから切りはなされているように見えた。ほとんどまばたきをしないし、目の…
A-6 その夜、非常に奇妙な夢を見た。遊星の夢はたいてい平凡だが、その夜は違った。疲れていて、それも変な疲れだった。頭というか、神経というか、今まで使ったことのない部分が消耗していた。具体的に言うと、目と、右のこめかみと、脳の奥のほうだ。身体…
A-5 「研究するのは、高校時代に想像していたよりずっと楽しいです。同じ志を持った仲間と、愛してくれる女の子がいてとても幸せだった」「女の子?」「ここに来る前に別れました」 ふうん、そりゃ災難だったな、と言って、十代は一定のペースでロブスターの…
A-4 キューバでは、過酷な労働と天然痘のためにインディオは全滅した。アトウェイは征服者に最後まで武力で抵抗した勇敢な主張だったが、結局、火あぶりで殺された。十代はその伝説のインディオを、奇妙な表情で眺めていた。そのビールのラベルにも告白の芽…
A-3 物語があるだろう、人間はもともと四つの足と四つの手と二つの頭がある生き物で、地を這って生活していたのが、木の上の果実をとるために二つに分かれたんだって、だがどうしても半身のことが忘れられない人間は、やっとの思いでそいつを見つけたとき、…
A-2 女は遊星のメルセデスに近づくと、恐ろしいほど自然な動作で、後部座席に近づき、乗り込んだ。つまり遊星は彼女のためにドアを開けてやったということだ。遊星は生まれてから今までそんなことはしたことがない。恋人がまだ遊星のところにいたときでさえ…
A-1 おれはおれ自身の錯乱を整理したくてキューバにやって来たんだ、とその痩せた女は繰り返すばかりだった。きれいな女だった。だが、女はどこか破綻していて、世の中の遍くから切りはなされているようにみえた。ほとんどまばたきをしないし、目の焦点はあ…