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ジョニー・ボレッリ…………………………イタリア人の少年 不動百合子……………………………………ジョニーがパレルモで出会う少女 不動遊星………………………………………百合子の兄 ジャック・アトラス…………………………遊星の恋人 パラドックス…………………………………ジョニーの友人 ルチアーノ……………………………………パ…

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パーフェクト・ワールド・エンド ある瞬間における全ての力学的状態と力を知ることができ、その能力を持ってして過去も未来も見渡すことのできる、不老不死さえ手に入れた魔女。それが遊城十代という人間だった。 目も眩むほどの昔、生まれてから十数年の間…

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パーフェクト・ブルー 生まれてこのかた、ジョニーは労働というものについたことがなかった。 彼は豊かだった。両親は一人息子の彼が欲するものは何でも与えてきたし、大学を卒業し、独り立ちしてからも、在学中に成功した投資事業で百合子ともども何不自由…

2023/01/04

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顔を上げた百合子が不安げにこちらを見つめてくる。潤んだ瞳から溢れた雫が、彼女の痩せた頬を夢のように落ちた。顎から滴るのを指先で受け止めながら、ジョニーはその瞼に唇を寄せた。「約束する。だからもう泣かないで? ね?」 キスをする。触れ合った皮…

2023/01/02

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生まれてこのかた、ジョニーは労働というものについたことがなかった。 彼は豊かだった。両親は一人息子の彼が欲するものは何でも与えてきたし、大学を卒業し、独り立ちしてからも、在学中に成功した投資事業で百合子ともども何不自由のない暮らしを送ること…

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ワールド・エンド とある科学者が、人間という生物の脆弱さを嘆いた。 人間は生物の中でも特に高度な知能を持った種族だ。彼らは五百万年前に種としての地位を確立してからというもの、さまざまな文明社会を築き上げ、その繁栄を極めてきた。だがその一方で…

2023/01/01

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ジョニーが小さな身体を捕まえてくすぐると、ルチアーノは足をバタつかせて抵抗し、ジョニーの右腕に噛み付きもしたが、百合子が見ているとわかると一転して嘘泣きをはじめた。息子のやんちゃな性格を深く理解している両親とは対照的に、百合子はすぐに駆け…

2022/12/21

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百合子は機嫌よく鼻歌なんて歌っていたが、不意につま先でぐっと背伸びをすると、ジョニーの鼻先からサングラスを攫った。象牙細工のように華奢で端正な足が波打ち際へ駆けていく。小さな花飾りのついたおさげの先が快活に揺れる。慌てて後を追うが、彼女は…

2022/12/20

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あれから、二人はジョニーの大学寮に共に住み、卒業とともに結婚した。サン・マルコ寺院にて行われた結婚式には、日本からはるばる渡欧してきた百合子の兄や両親、友人たちと、イタリア全土からジョニーの親族や友人たち、それから全く関係のない野次馬が合…

悪夢

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痛い。 痛い。痛い。……痛い。 うまく呼吸ができない。痛くて苦しくてもがいても、身体が灰色の鉛になったかのように重たくて、うまく動かせない。小さくて透明で冷たくて、鋭い歯を持った生き物が、わたしの全身を這い回っているのだ。手も足も、胃も、腸も…

2022/12/18

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とある科学者が、人間という生物の脆弱さを嘆いた。 人間は生物の中でも特に高度な知能を持った種族だ。彼らは五百万年前に種としての地位を確立してからというもの、さまざまな文明社会を築き上げ、その繁栄を極めてきた。だがその一方で、彼らは非常に脆く…

あらすじと登場人物

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あらすじ ◇コクーン ジョニーはどこにでもいる十三歳の少年だ。ある雨の日の夜、彼は自らの運命を覗き込む。 ◇ファム・ファタール 十九歳になったジョニーの目の前に、人間の形をした天使が現れる。彼女の横顔が美しいのはなぜだろう。ジョニーが彼女に恋を…

A

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コクーン はじめに、潮の匂いが鼻の奥のいちばんやわらかいところを突いて、その痛みがひかないうちにジョニーの右頬を涙が滑り落ちていた。 何が起きたのか、幼い少年には理解が及ばなかった。ただこの一秒にも満たない短い時間のあいだに、彼は闇の中で誰…

2022年9月22日

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C-1 朝がやってきた。 暁の薄明が、地平線のかなたで薔薇の花びらがするようにほころび、東の空に星々のまどろみを消し去っていく。雲は細い旗のように悠然とたなびき、風は未だ青白くくすんだ家々のあいだに奔放にひるがえる。 二十五歳のジョニーは、まだ…

B

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ファム・ファタール ジョニーは今まさに身繕いを終えるところだ。まだしっとりと湿った上半身を、下ろし立てのシャツで包んでしまえば出来上がりだ。のんびり屋の祖母が通院の予定を思い出してから今に至るまでの二十分の間に、彼は実に迅速かつ手際よく自ら…

2022年9月21日

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B-4 不動一家は、八月末までをパレルモの街で過ごすことになっていた。その短な時間の間に、愛し合う二人の身の上にさまざまな出来事があった。 まず、百合子の家族に恋人として紹介された。この日、ジョニーは人生で最も緊張し心を張り詰めさせていたに違い…

2022年9月20日

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B-3 翌朝、ジョニーは早朝五時半に起床した。 決戦は四時間半後、十時きっかりに彼は百合子とパレルモ・プレトーリア広場で落ち合う。プルマンでの移動に約一時間ほどかかるとして、全ての支度を三時間半の間に済ませなければならない。 彼はまずシャワール…

2022年9月19日

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B-2 彼女のつむじから、ふわりと花の香りが漂う。柔らかい肉の重みが、ジョニーの上半身に緩やかにかかる。 抱き止めようとして背中に触れたとき、その身体があまりにも薄っぺらいことに気づいて、何か触れてはいけないものに触れてしまったかのような罪悪感…

2022年9月18日

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B-1 ジョニーは今まさに身繕いを終えるところだ。まだしっとりと湿った上半身を、下ろし立てのシャツで包んでしまえば出来上がりだ。のんびり屋の祖母が通院の予定を思い出してから今に至るまでの二十分の間に、彼は実に迅速かつ手際よく自らの身なりを整え…