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 深いオリーブグリーンに装いをあらため、粛々と冬に備える木々の中にあって、その人は、夜の火のごとくまっすぐに、金色に燃えていた。
 庭でおもちゃにじゃれていた犬が、そのことに真っ先に気がついて吠えた。一メートルはある巨体の足が柔軟にしなり、アジサイの灌木をしなやかに飛び越えて、赤やオレンジの枯葉をかき分ける足音に尻尾を振りながら駆けていく。
 犬は来客のところに着くとパンツに顔を擦り寄せ、独特の仕草でなでなでをねだり、背中の毛並みを探られて嬉しそうに飛び跳ねた。ジャックは窓のうちから快活な犬の背中をしばらく眺めていた。そして、まいった、という気持ちになった。あいにく、アカンサスをあしらった陶器の鍋の中では芋のスープがさかんに煮えていたし、つやつやとこがね色をしたパイはオーブンの狭い部屋でめざめを待っている。繊細なガラス細工の水指の中の葡萄酒は、たったいま温められたばかりで、揺れる水面は磨かれて粉を落とされたばかりのピジョン・ブラッドを思わせた。
 几帳面に調弦されたチェロの音が、寄せては返す波のようにキッチンへ流れてくる。夫は気づいてすらいないらしい。この家には他に手がないので、ジャックは鍋の火を止め、花崗岩の水瓶にレースエプロンをかけて、サンダルを引っ掛けて外に出た。

 この家には奇妙な慣わしがある。毎年、銀杏が熟れて落ちるころ、遠くからやってきた旅びとを数日泊めてやるというものだ。
 ジャックも夫も、宗教のたぐいには縁がなく、土地に染み付いた古い慣習など気にするようなたちでもない。そもそも二人は故郷から駆け落ちてきた恋人どうしで、いまでも二人がいればいいなんて本気で思っていたから、科学、経済、権力、金、テリトリー外のあらゆるものがどうでもよかった。
 だが、二人はその季節の旅人たちには扉を開いた。それはまだ瑞々しく溌剌とした少年であったり、老成した灰色のまなざしを持つ老人であったりした。彼らはまったく他人であるにも関わらず、必ずこの時期に、一人でやってきた。また、一度誰かが訪れると、それ以降次の年まで、郵便屋以外の誰も二人を尋ねることはないのだった。
 その年は、若い青年が、枯れ木の門を潜ってやってきた。すすけて傷だらけの赤いジャケットに、夕暮れの日差しをあびてこがねに輝く栗色の髪が印象的な、美しい男だった。
 彼は玄関先に立つジャックを見とめるなり、芋や根菜の詰まったリュックをしめし、沸かしたての風呂を要求した。男と犬を三和土に押し込み、そこで待つように指示をして風呂場に向かうと、去しなに書斎を出る夫とすれ違った。