2022-09-19から1日間の記事一覧

2022年9月19日

WES

B-2 彼女のつむじから、ふわりと花の香りが漂う。柔らかい肉の重みが、ジョニーの上半身に緩やかにかかる。 抱き止めようとして背中に触れたとき、その身体があまりにも薄っぺらいことに気づいて、何か触れてはいけないものに触れてしまったかのような罪悪感…

サテライト サテライトはあしたにも沈むだろう。 大雨がやってくる。初夏特有の湿った潮風をたっぷりと吸い込んで、重たく身体を揺らしながら雨雲の渦がやってくる。サテライトは、海の向こうのシティとはちがって道路一つも整備されていないから、十年かけ…

ロマンス 最初に手をかけたのは、自分の母親だったと思う。 もう長いことこうしてきたから今更思うこともないが、当時はまだ二十にも行かない子供で、まかりなりとも家族である人間に忘れられるのには耐え難い苦痛が伴った。母が作った手料理なんかを思い出…

王国 昔々、ある国に、たいそう美しい、春の若葉のような皇子がおりました。 皇子がお生まれになった朝、その国で最も権威のある老預言者が、此度御生誕になられる御子は、長らく地の果てに幽閉されていた神の生まれ変わりだ、といったので、皇子の誕生は国…

港 ジャック。俺の名はジャック・アトラス。呟きは長い汽笛に攫われ、自分の耳にすら届かなかった。 港は人でごった返している。ついさっき、白くて大きな旅客船がずっと向こうからやってきて、桟橋に観光客を吐き出していったからだ。人々はジャックのそば…

女 奥ゆかしく寡黙な割れ目に触れ、指でそっと左右に押し開くと、やはり、薄桃色の肉が忙しなく呼吸しているのだった。日照りの粘膜はしっとりと濡れ、まるでそれ自体が感じやすい生き物であるかのように、うねり、震えて、僕の指や、あるいはまた別のものが…

スイス 恋人がその窓辺をフリードニヒの絵画のようだと褒めたとき、遊星の呼吸はひとたび、その職分を忘れた。舌は震え、指先にまで緊張が走り、彼女のかわいらしい褒め言葉に対して気の利いた答えをよこす余裕すら失った。 彼女のすみれ色の瞳が光に満ちた…

ガールフレンド 一方、遊星はますます妹から遠ざかり、そのぶんの時間を村の学舎でできた友人と連むのに傾けた。淡い赤毛の男の子や変わった風貌の日本人の少年なんかがとくに遊星を構い、そのうち、初めてのガールフレンドもできた。クラスでいちばんかわい…